CNN GLENTS

できるビジネスパーソンになるためにグローバル社会で真価が問われる
異文化コミュニケーションとしての英語力とは?

(株)アジアユーロ言語研究所 代表取締役、言語学博士、企業研修コンサルタント
鈴木 武生氏

真の国際人として、世界で活躍するために必要な力はどのように身につければよいのか。実践的なスキルを習得するビジネススクールなどで、異文化コミュニケーション講師を務める鈴木武生氏に、CNNのニュースで英語を学ぶ意義について語ってもらった。

英語でどのようにビジネスを遂行するか

—— 長年にわたり、英語を含むビジネス研修に携わっておられますが、今、海外で求められているスキルとはどのようなものでしょうか?

今までは英会話、プレゼンテーション、ライティング、全部ひとくくりに英語と言われていましたが、今は少し事情が変わってきました。特にビジネスにおいては、まったく文化の違う人間が集まって、新しいもの、クリエイティブなものを作っていかなければなりません。素早い判断が求められる中、チーム内でどのようにコミュニケーションをとるかが重要になります。

ただ単に「英語」がしゃべれてかっこいいねということではなくて、何をどう話して、どのようにチームをまとめ、どのように仕事を遂行するかという意味で、英語はそのための1つのツールに変わってきているのだと思います。

—— 日本で働くのとは違うものがグローバルビジネスにはあると思います。異文化に対する理解だけでなく、日本だとトップダウンになりがちですが、組織構造なども違うのでしょうか。

海外では多くの場合、組織が日本よりもフラットだということもあって、それぞれがプレイヤーになって、自分からアイデアを出して、いろいろな人とコミュニケーションすることが求められます。イノベーティブなものを創るなら、いろいろな才能のある人間と話したほうが多様なアイデアが出ます。これからはそういった関係性の遠い人間をどのように集め、うまく調整し、お互いにアイデアを出し合いながら、良い意味でぶつかっていくというスキルが求められるようになると思います。

ビジネス英語習得のロードマップとその先へ

—— 具体的に、ビジネス英語においてはどういうスキルが必要とされているのか、またどうやってそのスキルを身につければよいのでしょうか。

私は、英語学習は大きく3つのステージに分けられると考えています。最初のステージは中学・高校で学習する文法などの基礎知識です。文法は最初のハードルになりますが、これは覚えればなんとかなる段階で、TOEIC®480ぐらいのレベルで習得することができます。

次のステージに上がると、今度はスピードの壁にぶつかります。words per minute(WPM)といって、CNNで話す英語だと1分間に速くて200語、通常は170〜180語前後なんですが、日本人は読むのも話すのも60〜70語ぐらいが平均だと思います。しかしこれでは仕事になりません。実際に音を聞いて、実際に音読して話してみるという、いわゆる「筋トレ」式の反復練習でクリアする必要があるでしょう。

さらにその上が、コミュニケーションスキルのステージです。言語というよりも、実際に人をどう動かすか、どのように相手に自分の気持ちを伝えるかということが中心になっています。基本的にこういったスキルは公教育では教えてはおらず、専門家に教えてもらわないと得られない知識やノウハウなのです。このステージに到達しても語彙表現の壁は続きますが、こうした努力やチャレンジの継続というものは、コミュニケーションの必要がある限り、半永久的に続くものと考えるべきでしょう。

これが英語学習のロードマップです。我々は中学・高校を卒業すると同時に、基礎知識のステージをクリアするかしないかの段階でこうしたロードマップから脱落してしまいます。

ところが、実際ビジネスパーソンになって求められるのは、筋トレのステージでも上のほう、特にコミュニケーションスキルです。どんなトピックについて話すのか、相手とどうやって距離を近づけていくか。まったく知らない東洋から来た人間が、お互いに共有文化もないところで自分を相手に信用してもらうためにも、コミュニケーションスキルは必要になってきます。

必要なスキルを見定め、どのようにプラスアルファの知識を得るか

—— 筋トレまでは公教育でイメージしやすいのですが、海外駐在となったときに、さらに必要なスキルというのがあるのでしょうか。異文化理解やマナー、ルールは公教育で学ぶ機会があまりないにもかかわらず、とても重要だと思うのですが……。

知識というよりは経験値ですね。本に書いてある知識で覚えたらそれで終わりというものでもなく、だからといって現地に行けばいいという話でもありません。日本にいたまま身につけるにはどうすればいいかというと、教材や勉強の仕方を変える必要があります。

もう1つ重要なのは、どういうスキルが必要なのかを見定めることです。ビジネスにおけるスピーキングスキルは、日常会話、ビジネス会話、ディスカッション、公的スピーチ、大きく4つのカテゴリーで考えることができます。

まず日常会話、具体的には手続き的な会話と雑談です。「今日はいい天気」とか、「この間ジョンが会社辞めたみたいだよ」というのは雑談ですね。あるいはタクシーに乗って「空港までお願いします」とか、「これとあれを下さい」とお店で頼む。これらは手続き的会話です。これはある意味では旅行会話的なものです。

ビジネス会話は、ただ単に機械や金融のような専門の話ができるだけではなくて、仕事の内容プラススモールトークです。スモールトークというのは、相手との距離を縮めるための会話のスキルですね。

ディスカッションにはいろいろなものがあります。たとえば、会社の中で、あるソフトを作ろう、どんなソフトを作ったらいいかとディスカッションが始まります。そういったときに、トピックについていけないと難しいわけです。“I don’t know”などと言っていると「こいつはやる気がないのか」とスルーされてしまいます。

それから、公的な場面でのスピーチというものがあります。これはプレゼンテーションや人前での発表を指します。それぞれ自然な語彙は当然のことながら、後は何をどう話すかというスキル、同時に相手の価値観とか、こういうふうに相手は考えているんだというコミュニケーションのパターン、それに対する理解、異文化的なプラスアルファの知識、こういったものが必要になってきます。

——スラングや慣用表現を効率的に覚えようという場合、どういったアプローチが考えられるでしょうか?

塩にたとえて言いますと、岩塩のようなものですね。いろいろゴミや不純物が入っているけれど、それを使って食べると精製された塩よりもおいしく感じられる。それがちょうど教科書で覚えた英語と向こうで覚えた英語の差じゃないかなと思うんです。

たとえば、日本人の宴会場でインタビューをしている映像に「宴もたけなわです」と字幕が出る。「宴もたけなわ」という表現は教科書ではなかなか学べませんが、日本語のネイティブスピーカーなら誰でも知っています。そういった表現が海外に行かなくても覚えられるよう、実際のシチュエーションができるだけ反映されているものを教材に選ぶのがいいと思います。

海外メディアの視点から学ぶCNNニュースを使った英語強化

—— 価値観の違いによっても表現が変わってくるというお話がありました。その点についてお話をうかがえますか。

文化圏、文明圏が違うと、「真・善・美」と「神様」がそれぞれ違うので、「何を素晴らしいと思うか」というのも日本語圏と英語圏ではずいぶん違ってきます。

日本語に「素直」という表現があります。たとえば「もっと素直になりなさい」というとき、辞書で引くと「obedient」と書いてある場合があります。「彼は素直だ」はHe is obedient. でもobedientというのは、奴隷みたいなニュアンスであまり良い意味ではない。対応する最適な言葉がないんです。

あえてあてるとすれば、honestとかgenuineとかsincereとか、そういう表現を使うことが多いと思います。でも、「彼はhonestです(正直です)」とすると、英語の「正直」には「裏表がない」というニュアンスが込められているので、はっきり言うことを良しとする価値観が表れてきます。一方、日本語のほうには目上の人に素直に従う、素朴に従うのが良いという価値観がありますね。こういう違いは翻訳ではなかなかわからない、全体的な流れの中で覚えていくしかないですね。

—— CNNの生の英語で学んでいくことには、どのような意味があるのでしょうか。

日本で出ている英字新聞ですと、どうしても日本の内容中心になりますね。しかも、日本の記事を英語に直しただけのものもあります。編集者も英語ネイティブとはいえ、ある程度日本のことを分かっているので、そういった日本視点のものを英語を使って見たり読んだりしているような形になる場合もあると思います。

ところがCNNですと、特にアメリカ中心の見方で見ていますから容赦ないんですね。そのまま向こうの人の価値観が出てくる。良いか悪いかは別にして、まったく違う視点から眺められるというのは良いところです。

それから、日本にはない生活のパターン、ライフスタイル、視点をもとに話題が展開するので、日本のメディアでは得られない情報もあります。当然ながら自然な表現も出てきますし、ホットトピック、その時代に話題になっているトピックにも接しやすいのではないでしょうか。

—— まさにニュースそのものの視点が違ってくるというのは納得です。イギリス王室に関するインタビューでのメーガン妃の爆弾発言も、日本語では「死にたいと思った」と訳されていましたが、メーガン妃の発言だと「I just didn’t want to be alive anymore.」と報じられていました。

1つの表現だけを抜き出しても違いがわかりにくいですが、こういう言い方で、こういうシチュエーションで、インタビューで、という全体的な背景が重要なのです。私たちが日々勉強しているテキストは、不要なところをトリミングしてギュッとまとめたものが多いですが、それでは不十分なのです。

言語学でも言われているのは、そのシチュエーションに合った典型的な表現があるということです。たとえば、「明日は雨が降るでしょう」というのと「明日は雨が降るだろうね」、どこが違うかというと、おそらく「明日は雨が降るでしょう」は天気予報。「明日の天気は雨だろうね」というのは、仲間内で話をしているときに、「明後日は天気がいいかもしれないが明日の天気はたぶん雨だろうね」。状況と表現がセットになっています。他にも言い方は何通りもあるんですが、「これが一番典型的だよね」というのをネイティブスピーカーは無意識に知っています。だからシチュエーションに合った表現をポンと引っ張ってくることができるのです。

人間には、ビデオなり新聞なりを見た瞬間にそのシチュエーションに当てはまる表現の中でどれが典型的かを処理できる能力があります。そういった我々が持つ能力を最大限に使って、最適な表現を判断する知識を身につけるというのが効率的じゃないかなと思います。そういった意味では、ビデオやニュース記事を教材にするというのは非常に良いのではないでしょうか。

——先生自身が、これからのビジネスパーソンに求める英語像はありますか? こういう英語を勉強してほしい、あるいはどういう英語を話せばよいのでしょうか。

2020年ぐらいまでは、TOEIC®スコアがいくつであるとか、英語ができることが1つのスキルになっていましたが、海外ではどんどん変化しています。異文化に対する知識やトピックを知り、英語でどのようにシェアして、違う文化を持つ人間をどのようにまとめていけばよいか、それを仕事でどのように行うか、というのがこれからの課題になっていきます。

具体的には、異文化対応力と、異文化を持つ人間に対するコミュニケーション力、あとはスピーキング。こういった力が求められるのではないかと思っています。まだあまりそういった内容の教科書やプログラムはないですね。合わせ技なので、これらを身につけるには生の英語で勉強するのは非常に良いと思います。異文化も含めたコミュニケーション能力、プラス、英語によるスピーキング能力。これからはこういう視点で勉強されると良いのではないかと思います。

Special Movie

鈴木武生Suzuki Takeo

東京大学大学院総合文化研究科修了(言語情報科学専攻)。専門は英語、中国語、日本語の意味論。1991年にアジアユーロ言語研究所を設立。跡見学園女子大学、早稲田大学、東進ビジネススクール、日経ビジネススクール講師。企業向けスキル研修(異文化対応力、英語スピーキング力、ライティング、コミュニケーション、プレゼンテーション、日本語、中国語、日本文化)、翻訳サービスなどを手掛ける。『英会話のピンチ切り抜け術』(NHK出版)著、『ビジネス英語ライティング初級編』(東進ブックス)の映像コンテンツなどがある。