元CNN同時通訳者から大学生に向けて「英語を使って何をするか」を意識し、
自分の言葉でしっかり意見が言える訓練を
- 国際ジャーナリスト、 国際教養大学大学院客員教授
- 小西 克哉氏
コロナや気候変動など世界的な社会問題が原因で不安定な状況が続いている今、実用的な英語力や異文化理解能力がこれまで以上に求められている。CNN同時通訳者でもあった小西克哉氏が、本物の英語力を習得するためにCNNのニュースで学習することの有効性を語った。
外国語の「音オタク」が同時通訳者になるまで
—— 小西さんは子どもの頃から英語が好きだったのですか。
語学が好きだった父は、戦後「英語を勉強しなくては」と思ったようで、レコードでずっと「リンガフォン*1」の教材を聞いて勉強していました。父が聞いていたブリティッシュイングリッシュが子どもの僕にはとても美しい音楽のように聞こえて、そこから僕はだんだん外国語の「音オタク」になっていきました。
小学6年生の学芸会では「世界各国の大使がお祝いに来ていますよ」なんて司会をして、当時人気だった外国語の物まね芸人藤村有弘*2さんのまねを友達と一緒にやってウケをねらったりしました。中学に入る頃には「早く英語をちゃんと勉強したい」という気持ちが強くなっていましたね。
高校ではギターも弾けないのにポール・サイモン*3の英語の歌をほぼパーフェクトに歌えるようになりたいと思っていました。当時アメリカではベトナム反戦とかフリーセックスという日本人にとっては目新しいことがどんどん起きていて、「現地に行って何が起きているのか自分の目で見てみたい」と留学を希望するようになりました。留学費用の奨学金をいただけるAFS交換留学制度*4を利用し、1972年に渡米しました。ちょうどその前年にニクソンショック*5が起きたのを覚えています。
—— いつ頃から同時通訳の仕事を目指すようになったのでしょうか
僕はもともと「大学で教えたい」というキャリアプランを持っていたのですが、それだけでは所得が少ないので春休みなど大学が休みの間に同時通訳を兼業しようと思ったんです。六本木にあったサイマル・アカデミーで、帰国子女や企業からの研修生、僕のような留学経験者とともに勉強しました。
いろいろお仕事をいただくようになって、そのうちのひとつがテレビ朝日によるCNNのニュースを扱った番組でした。毎日24時間CNNからニュースが衛星で送られてくるので、膨大な延べ人数の通訳者が必要で、その中でも同時通訳の経験がある男性は僕しかいなかったので、特に夜は専任通訳のように働きました。女性の深夜労働はできるだけさせないという意識が当時は強かったのでしょう。独身だったし、夜間は報酬も良いし、まだ20代後半という若さだったので、無理をしながら頑張っていましたね。
—— 毎日CNNニュースを聞くことで英語力に変化はありましたか。
朝から晩までCNNのニュースを聞き続けることでかなり英語力が鍛えられました。それまで7~8年間会議通訳をしてきたのでそれなりに自信もあったのですが、最初にCNNのニュースを聞いたとき、「どんな内容?」と聞かれても答えられなかったんですよね。大学院や国際会議でかっちりした英語ばかり聞いていたので、リアルな英語というのがわかっていなかったんです。
また、当時のCNNニュースリポートには、文章に5W1Hが含まれていなかったり、場所や要人の固有名詞をちゃんと言ってくれなかったりする。誰が何をしゃべっているのかわからず混乱することもありました。「これは大変だ、修業し直さないとダメだ」と8時間シフトのあいだに、必死で聞き取りを続けました。今のようにデジタルでもなければスクリプトもないわけで、テープを巻き戻しながら意味を取るのはなかなか大変でした。そう思うと、今の若い人たちは恵まれていますよね。
新時代のオンラインテストCNN GLENTSの意義
—— 現在は、様々な国の発音の英語を聞き取れることも重要視され始めています。
確かに英語の発音は様々で、イギリス英語に比べたらアメリカ英語はわかりやすいとか、いろいろありますね。でも、英語を勉強する目的は言語をマスターすることではなくて、「英語を使って何をするか」であるはずです。そのための英語力は必要十分なレベルでいいわけで、マスターしようと突き詰めると人生を棒に振ってしまう気がします。
こういう本末転倒な状況が起きやすいのは、日本で英語が受験科目になり、悪い意味でゲーム感覚で穴埋め問題のようなクイズ形式テストばかりやってきたせいもあるでしょう。だから、アジアでも最低レベルの外国語能力になってしまった。クセが強い英語をすべてマスターするよりも、言語にバリエーションがあることを認識していること自体が大事だと思いますよ。
—— 新しく始まる「CNN GLENTS」は従来の検定試験とは異なり、問題文の背景にある文化的知識も試される仕組みとなっています。
「CNN GLENTS」はCNNで放送されたニュースの理解力を試すテストとして、英語の初歩的なレベルから非常に高いレベルまで、幅広くうまく設問が用意されていると思います。素材としての英語の新鮮さを生かした構成が実現しているように見えますね。
文化的背景が問われるというのも重要なポイントで、これまでの英語試験に根付いていた「背景的な知識を設問に含めると英語と知識力の分離ができず、正確な英語力の測定が難しくなる」というのは、私に言わせると一種の「語学原理主義」でして、知識と一体になったテストもあっていいはずです。固有名詞も知っていればコミュニケートしやすくなる大切な情報ですから、それを知っていることも英語を使う人間が持つべき大事な実力のひとつだと思いますね。10年後に求められるボキャブラリーや表現力が今と違ってくるのも当然の流れですし、時事英語を用いた検定は時代に即した英語力が測れる良いテストだと思います。
今後、多くの社会人が仕事の合間でも単位を取れるような大学講義のオンラインシステム化が進むでしょうし、海外の大学のコースを取ることも可能になっていくでしょう。その際のスクリーニングに英語の試験は必ず必要となると思いますし、本物の英語力を測ることができる検定の意味はどんどん大きくなると思います。
世界に触れて客観性と表現力を身につける
—— 真の国際人を目指すにはどのような能力が必要でしょうか
日本の主要メディアは様々な日本的ルールに守られ、ぬるま湯につかった内向き産業です。横並びばかり意識して、外のことには選択的関心しか示さない。たとえば、今ならテレビでは朝から晩までコロナ報道ばかりを流していたりする。もちろん大切なニュースですが、もう少しバランスよく様々なトピックを扱うべきでしょう。トレンドと言われるとそれに流されてしまって、複眼的なものの見方ができないところがあるんです。
しかし、CNNのニュースのようなコンテンツを通して学ぶことで世界の人が興味を持っていることを理解できますし、その背景となる価値観や思考を理解するヒントを得ることもできます。そういう新たな視点を得ることこそが、英語を勉強する大きな理由であるべきだと思います。
大学の授業で僕はCNNのニュースやYouTubeの動画をテーマ別に活用し、「何が起きていたか」「登場人物の誰に意見が近いか」などをたずねながら英語でディスカッションしてもらっています。歴史認識問題や表現の自由の問題においてアメリカのニュースが提示するテーマは日本にも通じるものが多いので、海外から来た留学生は日本人学生がどういう意見を言うかとても興味を持ったりするようです。うまく英語で発言できない生徒には「日本語で一度言ってごらん?」と言ってみることもあります。母国語でまとまってないアイデアを英語で発するのは無理ですし、一度頭の中でまとめてもらうことで短い英語で大事なポイントを伝えられるようになることがあるんです。
今の学生はとても恵まれていて、勉強する機会も多いし、ネットもあって勉強する道具もそろっている。世界の動向を客観的に理解できて、自分自身の好みや立場、大事なメッセージを英語でちゃんと言えるというのは非常に大切であることを知って、意欲的に英語を学び続けてほしいと思います。
(CNN ENGLISH EXPRESS 2021年7月号より転載)
Special Movie
小西 克哉Konishi Katsuya
東京外国語大学大学院地域研究科修士課程修了。1977年よりサイマル・インターナショナルにて国連国際刑法セミナー国連都市会議、官庁、企業の会議通訳などを担当。’84年よりテレビ朝日「CNNデイウォッチ」の司会者として好評を博す。その後、テレビ朝日系列「サンデープロジェクト」の初代司会者を務め、湾岸戦争時にはCNN同時通訳チームをチーフとして主導した。東京外国語大学講師、亜細亜大学国際関係学部客員教授を経て、現在は国際教養大学大学院客員教授。主な著書に『小西克哉の初級バイリンブック』(桐原書店)、『小西克哉のインタビューズ・オン・ジャパン』(NHK出版)など。
- *1 リンガフォン:本、CD、ビデオ、カセットなど、自習用の語学教材を提供するイギリス企業。
- *2 藤村有弘:1950年代~1980年代初めまで活躍した物まね芸人。インチキ外国語で人気を博した。
- *3 ポール・サイモン:アメリカのシンガーソングライター。主に1960年代に活躍したサイモン&ガーファンクルというフォークデュオのメンバー。
- *4 AFS交換留学制度:世界で最も歴史のある、高校生を対象とした交換留学制度。ボランティアによって支えられている非営利組織が1947年に開始した。60か国以上にネットワークを持つ。
- *5 ニクソンショック:アメリカのリチャード・ニクソン大統領が1971年に発表した、固定相場制の廃止や、金とドルの交換停止を含む経済政策。