大学入試に直面する高校生へCNNのニュースで世界の多様性に触れて
ワクワク感を持った学びを
- 関西学院千里国際中等部・高等部 進路情報センター長
- 米田 謙三氏
英語の教員免許を持ちながら、高校では社会科・総合探究科の科目を担当。経済産業省の「未来の教室」のワーキングメンバーでもあり、教育現場でICT教育の最前線にいる米田謙三氏に、大学入学共通テストの英語の出題傾向の変化に伴い、 学生のうちから多様な英語に慣れる必要性について昨今の事例を語ってもらった。
大学入学共通テストへの移行で英語の入試はどう変わったか
—— CNNを使った新しい検定試験が誕生しましたが、教育現場では今どのような動きがあるのでしょうか。
入試の観点から言えば、まず最初に2021年から大学入学共通テストがはじまり、テスト内容が大きく変わりました。リスニングにおいては、従来の20%という配点比率が、今回は50%に引き上げられた大学も見受けられ、リスニング力を重視する傾向が高まっていることがうかがえます。
もう一点は、世の中の流れから多様な英語への適応力が求められるようになったことです。これまでの英語学習や入試では、アメリカ英語、イギリス英語に限られていましたが、それ以外の様々な地域、国の人が話す英語を聞き取る力が必要になってきました。
CNNのニュースの一番のポイントは、ニュースソースが新しいことと、様々な国のアンカーが様々なニュースを伝えるということです。この2つは他の検定試験がまねをしにくいポイントだと思っています。CNNを使った検定試験が新たに誕生したことで、多様な英語への適応力を測るきっかけになるのではないでしょうか。
—— 新しくはじまった大学入学共通テストについて、先生はどのようにお考えになっていますか。
英語の問題には少々限界を感じています。たとえば、図とかグラフを参照していかに早く情報を読み取り、早く答えを導き出していくかという傾向になるのはやむを得ないのですが、そういった要素があまりにも多くなりすぎると、本当の意味で英語力を測る試験ではなくなってしまう恐れがあると感じています。
一方で、生徒たちから反響が大きかったのは時事問題です。時事英語のボキャブラリーがかなり問題にも反映されていました。いわゆる入試対策の単語集だけではなく、CNNのニュースで使われているような単語を習得する必要性が生まれていると言えます。
—— 先生は、大学入試はこうあるべきだと思ってきたことはありますか。
学習指導要領の中でよく言われる大切な要素は大きく2つあって、1つは「知識・技能」、そしてもう1つが「思考・判断・表現」です。これまでの大学入試では、「知識・技能」を中心に考えられてきましたが、今後は「思考・判断・表現」をどのように育て、また評価していくのかが大きな焦点となってくるでしょう。現場では、今まさにその点を考えながら取り組んでいるところです。
この「思考・判断・表現」の部分がもっと一般化されていくことが必要でしょうね。ただ、リアルな英語とかリアルな時事情報をすべて読み取る、聞き取るといったことは、どうしても実践するのが難しいので、今回誕生したCNN GLENTSをうまく活用することによって、その課題を克服することができるのではないかと期待しているところです。
2022年度に学習指導要領が刷新、求められるSTEAM教育
—— 2022年度からは高等学校における学習指導要領が新しくなりますが、今までと何がどのように変わったのでしょうか。
いくつか変わったポイントはありますが、私が注目しているのは、たとえばニュースから出てくるような時事的な情報をきちんと読み取り、それをしっかりと理解し、自分の意見をきちんと伝えることに力を入れている点です。
—— 英語の教員はこれからどうしていけばよいのでしょうか。
英語の教員にもいろいろな背景知識が求められてくるでしょう。でも、これは英語科の教員に限ったことではありません。今求められているSTEAM教育―Science・Technology・Engineering・Art・Mathematics―のようにいろいろな教科と連携して、横断してということが今後さらに必要になってくるのではないでしょうか。
—— 社会に出て仕事をしてみると、実際に耳にする英語は英語を母語としない国の人が話す英語であるケースが多く、実際にはいわゆるアメリカ英語に触れる機会はあまり多くないと感じます。それを「正しい英語ではない」と捉えている日本人もいるのではないかと思いますが、そういう傾向をどのようにお考えですか。
先ほども述べましたが、様々な地域や国で話されている英語に触れることがこれからは間違いなく増えてくるでしょう。英語を通じて、いろいろな国の現状を知ることはとても大切なことです。
とはいえ、現実的には小中高の間にそういった体験ができる機会は少ないので、特に英語学習においては、CNNのような多様なニュースや多様な国のアンカーの英語に触れる機会を生かしてほしいなと思います。
あと、今の中・高校生たちに一番持ってほしいのは、学びに対するワクワク感ですね。私が委員を務めている経済産業省が取り組む「未来の教室」では、「教科学習や総合的な学習/探究の時間、特別活動も含めたカリキュラム・マネジメントを通じ、一人ひとりのワクワクする感覚を呼び覚まし、文理を問わず教科知識や専門知識を習得する(=「知る」)ことと、探究・プロジェクト型学習(PBL)の中で知識に横串を刺し、創造的・論理的に思考し、未知の課題やその解決策を見出す(=「創る」)こととが循環する学びを実現すること」をテーマに掲げています。ワクワク感を中心に、「知る」と「創る」のサイクルを回していってほしいですね。
—— 先生は英語のどういった点にワクワクを感じているのですか。
私が英語を好きなのは、世界の中でも幅広く使われている言語の1つであり、いろいろなソース、情報を得ることができる言語の1つだからです。また、コミュニケーションツールとしても幅広く使われている言語の1つなので、海外の人たちとのコミュニケーションで役に立っているということはありますね。
もう1つは、何か新しい自分と出会えることです。その国の情報を聞いて、質問をしたり自分の情報や考えも伝えたりできれば、すごく楽しいしうれしい。新しい気づきが生まれるのです。そして新しい自分が生まれる気がするのです。このような経験・体験こそが、まさにこれからの社会では必要になるんじゃないかと思います。仕事につながってもいいでしょうし、趣味やボランティアで生かすとか、何らかの形で自分のこれからの人生を豊かにするツールの1つになればいいんじゃないかと思います。
問題解決能力を身につけるためには
—— 他者とコミュニケーションをする中で、たとえば相手と共通した課題の解決を求められるとき、相手の立場や環境といった異文化理解ができていないとコミュニケーションとして成り立たないと思いますが、そういった力を身につけるには、どのようなことを日頃から心がければよいのでしょうか。
問題解決や課題解決において一番ポイントとなるのは「問い」の立て方です。単なる「YES」「NO」の問いではなく、「なぜ」「どのように」という問いですね。
インターネットがこれだけ普及している時代なので、そういった情報収集が簡単にできるようになってきました。そこで大切になってくるのは、その情報が本当に正しいかどうか、本当にその情報を見抜くことができるかどうかということです。
そしてもう1つ大切なことは、レジリエンス(resilience)、コンフリクト(conflict)をできるだけ体感するということ。私も生徒たちにはよく「仲良く喧嘩をいっぱいしろ」と言っていますが、コンフリクトによって新しい発見、解決方法を見いだすことができます。そういった経験をどれだけ積んでいるかということが、実際の社会で必要になってくるでしょう。
こういった観点から、CNNのニュースを見て、実際にお互いの考えを述べ合ったり、課題、問題を自分たちでどのように解決していくのかという授業も行っています。ぜひ他の学校でも可能な限り取り組んでいってもらえるといいなと思っています。
—— 新しい発見や解決方法を見いだすために、具体的に高校生たちにはどのような経験を積んでいってほしいと思っていますか。
私は日本という国が好きですし、良い国だと思う部分はたくさんあります。その上で、日本という国を外からの目で見ることや、周りの国の人々がどう見ているかを考えることが絶対に必要だと思うんですね。
これは、クリティカル・シンキング(批判的思考)に通じる話で、批判という意味ではなく、良くも悪くもどのように見てくれているか、それに対して自分たちはどのように考えを出していくかということです。
逆も同様で、私たちがある国に対してどう思っているかと聞かれたときに、そもそもその国の人たちと実際にやりとりをしてみないとわからない。そのリアルな情報を得るために、私はその現場に行って、自分の目で見て、それを自分のものにするということを繰り返していた時期があります。たびたび海外へ飛び出していましたね。
今はコロナで難しくなりましたが、今の高校生たちにとって留学が身近になっているのも環境としては大きな要素ですね。多くの学校に留学制度が設けられていますし、最近では文部科学省が「トビタテ!留学JAPAN」というキャンペーンを実施しています。ぜひどんどん飛び出してみてほしいですね。
それから、英会話ひとつとっても、今はビデオ会議システムで世界中の人とオンラインでつながることができます。無料でコミュニケーションを取ることができるので、便利になりましたよね。ICTも効果的に活用してほしいと思います。
高校生はCNN GLENTSをどう活用できるか
—— このCNN GLENTSは高校生にどのように利用してもらいたいですか。
今の大学入試の英語問題はどうしても「読む」が中心になっていて、読解の分量が増えています。だからといって、難しくなっているわけではないんですが、読解に関していえば、普段の生活において新聞や雑誌などを読む量は格段に減っていますよね。また、ここ数年、「聞く」問題が確実に増えてきました。やはり「読む」「聞く」「書く」「話す」といった力は必要だと思います。
そうした力を養うための基礎知識として、現代を知る、時事問題をとらえるという目的で、NIE(Newspaper In Education)という活動が推進されています。そこから派生してニュース時事能力検定試験という日本語の試験もありますので、その英語版が求められている部分は大いにあると思います。
CNN GLENTSは、高校生の英語学習においても「知識・理解」の部分、「思考・判断・表現」の部分をうまく補っていくきっかけになりうると思っています。また、ICTの活用にもつながる点がポイントですね。
「未来の教室」のコモンルーブリックのねらいを参考までに紹介しますが、まさに次の3つの項目を身につけるためにもCNN GLENTSを活用してほしいと思います。
- 身につけたい3つの項目
- ・実社会の課題を解決するために、教科を横断して活用できる知識・技能
- ・未知の状況から本質的な課題を発⾒し、創造的に解決に取り組む思考・判断・表現力
- ・幸せな未来の創造のために、他者と協働し、学びを評価・改善し続ける⼒・⼈間性
—— ちなみに、CNN GLENTSはオンラインテストです。まさにコロナ時代に適応したテストと言えそうですね。
教科で「情報」も大学入学共通テストに入る予定です。そうすると、英語の検定試験だけでなくいろいろな教科がCBT(Computer Based Test)に移っていくのではないかと考えられます。
加えて、文部科学省主導のGIGAスクール構想というものが始まり、いよいよone to oneの時代になります。GIGAスクールにおけるone to oneでは、タブレットやノートパソコンが一人一台という環境が整備されます。そうなると、CBTもその環境で受けることが可能になるので、オンラインテストは今後ますます普及するのではないでしょうか。
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米田 謙三Yoneda Kenzo
関西学院千里国際中等部・高等部 教諭。社会科・総合探究科の科目を担当し、進路情報センター長・高2学年主任を務める。文部科学省「高等学校学習指導要領解説 情報編」担当、経済産業省「未来の教室」STEAMライブラリーWG委員、総務省 青少年の安心・安全なインターネット利用環境整備に関するタスクフォース委員、内閣府他共催「高校生ICT Conference」実行委員長、日本英語検定協会派遣講師などを兼任。