吉川浩満『理不尽な進化』(朝日出版社・刊)
理不尽な進化
《理系も文系も必読、歴史と人間を問い直す知的エンターテインメント》

99.9%の生物種が消える? この世は公平な場所ではない?
「絶滅」の視点から生命の歴史を眺めるとどうなるか。
進化論が私たちに呼び覚ます「魅惑と混乱」の源泉を、
科学と人文知の接点で掘り当てる、近代思想の冒険的考古学!


「生き残りをかけた生存競争」「ダメなものは淘汰される」―― でも、進化についての私たちの常識的なイメージが、生物進化の実相とかけ離れているとしたらどうでしょうか。 実は進化論という名のもとに、私たちがまったく別のものを信じ込んでいるのだとしたら? 書評子絶賛、科学の時代における哲学・思想のありかたに関心をもつすべての人、必読の書です!



■特設サイトコンテンツ もくじ

(1) イベントを開催しました! 


(2) ご高評をいただきました! 
  1. 寄藤文平さん(『ケトル』VOL.23、太田出版)   ←New!
  2. 加藤典洋さん、阪上孝さん、平尾隆弘さん
  3.   (『みすず』二〇一四年読書アンケート、2015年1・2月合併号)
  4. LITERA/リテラ http://lite-ra.com/2015/02/post-841.html
  5. 米本昌平さん(『週刊エコノミスト』2015年2月10日号)
  6. 武村政春さん(北海道新聞 2015年1月25日)
  7. 池谷裕二さん(読売新聞「ビタミンBOOK」 2015年1月18日)
  8. 金子務さん(週刊読書人 2015年1月16日号)
  9. 柄谷行人さん「書評委員が選ぶ「今年の3点」」(朝日新聞 2014年12月28日
  10. 長野敬さん「2014私の3冊」(東京新聞 2014年12月28日)
  11. 島田雅彦さん朝日新聞 2014年12月21日
  12. 池澤夏樹さん(『週刊文春』12月25日号)
  13. 池澤夏樹さん「2014この3冊」(毎日新聞 2014年12月14日)
  14. 加藤典洋さん(共同通信)
  15. 日経新聞 2014年11月09日 東京朝刊
  16. 山形浩生さん(cakes「新・山形月報!」2014年11月19日)
  17. 養老孟司さん(毎日新聞 2014年11月09日 東京朝刊)


(3) 「絶滅の視点から世界を眺める」ブックリストの書目を公開しています!
    (朝日出版社第二編集部ブログ内)★ブックフェアを開催してくださる書店さん募集中

(4) まえがきを公開しています(朝日出版社第二編集部ブログ内)

(5) 『理不尽な進化』もくじ


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刊行記念トークイベント|

北田暁大+吉川浩満
「社会は「遺伝」するのか? ダーウィニズムと科学、歴史、差別」
2015年5月9日(土)朝日カルチャーセンター新宿教室

「社会と遺伝」を結びつける思考は、二次大戦後も名称を変え残り続け、IQをめぐる論争から社会生物学論争、遺伝子組み換えの是非、遺伝子診断に至るまで、私たちの社会を覆い続けている(…)

吉川は『理不尽な進化』にて、この大論争(註:社会生物学論争)をとりあげ、グールドを「科学」とは異なる「歴史」の視点から捉え返し、その問題意識の重要性を論じている。「イデオロギー」ゆえにではなく「学問観」の観点からグールドを救済したわけである。

本講座では、そうした吉川のグールド論を承けつつ、「社会」と「遺伝」「進化」のかかわり方を、考察していくこととしたい。これは、「科学とはなにか」「進化の単位は何か」というコアな科学哲学的論点から、「遺伝の比喩の社会的影響」「なぜ私たちは「遺伝」に拘るのか」といった社会学的論点まで広がりを持つものである。社会生物学、進化論を社会学的に裁断するのではなく、その科学としてのあり方の条件を議論し、遺伝子にとりつかれた私たちの社会を捉え返す。

(以上、朝日カルチャーセンターウェブサイト|講義内容より)


当日に出た論点をいくつかご紹介します。
  1. 「偶然性」「かけがえのなさ」というのがマジックワードになっていない?
  2. グールドとドーキンスは、偶然性をもたらす条件(環境)を、どのような範囲で設定するかにおいて、かなりちがう考え方を持っていたのではないか。
  3. ドーキンスの「利己的な遺伝子」は理論的な構成物。一方、グールドは古典的な実在論者・検証主義で、観察できるものではない限り、科学者が創りだした構成物を実体化するなという立場。モデルを作る科学と、史料編纂的な科学の違いがある。そう考えると、グールドのほうが、ダーウィニズムに忠実だったと言えるのかもしれない。グールドが適応主義を批判するのは、適応主義が(われわれの都合で/われわれの認識的限界ゆえに)、「~のために」という目的論的な語彙を忍ばせているから。
  4. 群/個体など、何が自然淘汰の「単位」なのかを、観察者がカテゴリ化してものをみていて、けっこう自由度が高いのではないか。そのカテゴリ化のときに、「説明と理解」でいえば「理解」にあたるものが入り込んでいるのではないか。グールドは実はそのあたりのことが言いたかったのではないか。
  5. グールドの『人間の測りまちがい』:骨相学よりも、IQのような、あるのかないのかもわからないような、人間の構成物が、どんどん数量化が洗練されていき、独り歩きしていくほうがよっぽ怖い。人間が構成するカテゴリと、それによる実証、これへの警告が、彼の全体的な議論に見えるのではないか。
30人以上いらしてくださいました。どうもありがとうございました! 

  • 吉川浩満さんのブログの記事はこちら。北田さんのお話の要約をふくむ「追記」が公開されています。


朝日カルチャーセンター写真



東浩紀+吉川浩満
「運と確率の進化論――『理不尽な進化』をめぐって」
2015年4月24日(金)ゲンロンカフェ

統計的な知にとりかこまれている私たちの世界では、一枚めくればすぐに根源的な問い(理不尽さ)にぶつかってしまう。そのとき、人間の実存をどう考えたらいいだろう。ソルジェニーツィンの『収容所群島』のこと、東浩紀さんの人生で二回のファンレターのお話、偶発性と精子、歴史の一回性のこと等々、様々なお話が展開されました。「文系と理系の距離がどんどん離れて行っている時、どうつなげていけばいいのか。ああ、こういうやり方があるのかと思った。勇気づけられた感じがする」(東浩紀さん)。来て下さった皆様、本当にありがとうございました。

  • イベント案内はこちら。当日使われたスライドがUPされています。
  • 吉川浩満さんのブログの記事はこちら。「まず最初に読むべき書物の一覧」が公開されています。


ゲンロンカフェ写真



吉川浩満+山本貴光
「いかに探し、読み、書くか? ネット時代の〈本〉との付き合い方」
2015年2月10日(火)リブロ池袋店

吉川浩満さん『理不尽な進化』に相次いで、相棒としてコンビで本を書いてきた山本貴光さんの単著『文体の科学』が刊行されました。 そこでお二人の刊行を記念して、硬軟、文理の別を超えて本を愛し、ジャンル化不能の本を書いてきたお二人に、 「いかに探し、読み、書くか?」をうかがいました。
大盛況、御礼申し上げます!



吉川浩満さん+山本貴光さん写真

 山本さん
 「何を読むときでも
“底意地”はどこかを考える」


 吉川さん
「発想=アマ 仕上げ=プロ」
吉川浩満さん+山本貴光さん写真

 山本さん
 「物理環境大事!」


 吉川さん
 デジタルガジェットを活用した
新刊情報取得法を紹介
 http://logico-philosophicus.net/?p=60
吉川浩満さん+山本貴光さん写真  

山本さん
  「本を読むことの効用は
“想像の上で立場を自由に
入れ替えるためのレッスン”」


吉川さん
「『理不尽な進化』を
書くときに、資料3千冊程度を
電子化しました」



ご高評をいただきました!

書評| 寄藤文平さん(『ケトル』VOL.23、太田出版)

10年ほど前から、年の初めに自分の年譜をつけることにしている。(…)

「理不尽な進化」を読みながら、その内容に、自分の年譜づくりがダブった。(…)

はて、なんの話をしようとしたのだったか。実のところ、 本は読了したのだけれど、何が書いてあったのか、よくわからないのである。 丁寧に編まれた、進化と進化論についての考察だったことは覚えているのだけれど、本を閉じると同時に、ほどけて消えてしまった。

ただ、「進化論」が身の回りのあらゆるところに接続して、 「進化論」の外側に思考が開かれていく「感じ」は残っている。
自分の思考回路がこんなにも「進化論」の影響を受けているとは思わなかった。
数ページ読んでは本を閉じ、いろいろなことを想像したり、考えたりするという、そういう読書を久しぶりに楽しんだ。


寄藤文平さん、『ケトル』VOL.23、太田出版より抜粋



書評| 『みすず』二〇一四年読書アンケート 2015年1・2月合併号

加藤典洋さん──新しい書き手の進化論をめぐる文化史、思想史の試み。ふんわり感が残る。

阪上孝さん──絶滅した生物種(古生物学の知見によれば、これまで地球上に出現した生物種の九九・九%が絶滅したという)の側 から生物の歴史(進化)を見るという、著者が採った視点に脱帽。この視点から出発して、 著者は世上で言われる〈進化〉〈淘汰〉〈勝ち組/負け組〉などの進化論的言辞は科学的進化論の誤解にすぎないこと、 しかしこの誤解は進化論の独特の性質から生じており、一般に、科学的言説(説明)が日常的世界像に入るときに生じる 〈歪み〉であることを説得的に論じている。ユーモアのあるこなれた文章で一気に読了した。

平尾隆弘さん──知的刺激に満ちた本。ロジカルにして軽やかな文体も素晴らしい。ドーキンス・グールド論争についての考察には感嘆納得した。

『みすず』二〇一四年読書アンケート、2015年1・2月合併号 
http://www.msz.co.jp/misuzu/magazine_feature2015jan-feb/ より抜粋



書評|LITERA/リテラ

結局、自己啓発系ビジネス書が語る「適応」や「進化」は、自らの願望を社会や自然に押しつけているだけではないか。 というか、これって「成功」という餌をちらつかせて、本来どうにもできないことをどうにかできると言いくるめる詐欺なんじゃないだろうか。

 本書から学問的な用語を引いてくれば、それは「生存バイアス」と「公正世界仮説」という認知バイアスを利用したトリックだ。  こうした詐欺に乗る「意識の高い」読者は、嬉々として成功者の自慢話を聞き、それによって自己を啓発した気になる。だけど、本物の進化論が教える真実(99.9パーセントが絶滅すること、しかも運が悪くて絶滅すること)を前にしたら、自己啓発系ビジネス書の号令は、なんと虚しく響くことか……。

 そんなことなら、むしろ失敗者・落伍者の累々たる屍からなにかを学ぶ謙虚さを身につけることから始めるべきだと思うのだが、どうだろうか。

LITERA/リテラ http://lite-ra.com/2015/02/post-841.html より抜粋



書評|米本昌平さん(『週刊エコノミスト』2015年2月10日号)

日本における知的活動の中で、全く欠落しているのが科学評論という領域である。[…]

[…]科学評論という観点からするとお行儀がよすぎるのだが、 吉川浩満『理不尽な進化』(朝日出版社、2376円)はなかなかの収穫である。[…]

専門の研究者は、こういう有能な予備校教師のような腑に落ちる説明はしてくれない。[…]

科学評論としてなぜ良いのかと言うと、正統派の進化論理解に立ちながら、啓蒙臭がないことである。[…]

他方、吉川氏の正統派に対する目は醒めている。これは、日本での次世代の進化論論議に、少なくない希望を託してもよい兆候ではないかと思う。

米本昌平さん、『週刊エコノミスト』2015年2月10日号より抜粋



書評|武村政春さん(北海道新聞 2015年1月25日)

[…]著者はその論争ならびにグールドの世界観のあぶり出しを、背後にある古来の難問(例=歴史を理解するのに科学的な説明で十分か)や、「偶発性」 に関する哲学的背景にも言及しながら、滔々とやってのける。

著者は「一般の読書人に向けたエッセイ」だと言うが、専門家こそ読むべき書であると主張する かのごとく緻密な論考を展開する。その流麗さは、論争に敗北し、(それが原因ではないが)61歳という若さで帰天したグールドもまた、理不尽な思いをそ の心の内に秘めていたに違いないという思いに、思わず駆られるほどだ。

生物たちは、自らの絶滅を「理不尽だ」などと思ったりはしない。だからこそ本書を読むと、僕たちが常日頃味わっている理不尽さなど、桁違いに小さいこと に気付かされるのである。

武村政春さん、北海道新聞 2015年1月25日より抜粋



書評|池谷裕二さん (読売新聞「ビタミンBOOK」 2015年1月18日)

この本は昨年の私的ベスト5に入る良書です。科学書ではなく、「進化論」という老樹を権に冠(かぶ)り、思索に遊ぶ粋な哲学書です。

池谷裕二さん、読売新聞 2015年1月18日より抜粋



書評|金子務さん (週刊読書人 2015年1月16日号)

敗者たちの立場から、進化論思想の理不尽さと論争点を説いたのが本書である。(…)

著者はこの道の専門家ではなく、若き哲学的知識人である。資料を博捜して、論争のもつれを解き、一般人に伝えるにはいい位置にいるし、 真摯な態度には好感が持てる。(…)

この論争は進化論の舞台から学問論に飛び出す難問である。著者は基本的にドーキンス派だが、 説明の手段と理解の納得というレベルの違いで議論の食い違いを説明している。(…)

久しぶりに知的刺激を受けた好著である。

金子務さん、週刊読書人 2015年1月16日号より抜粋



書評|柄谷行人さん「書評委員が選ぶ「今年の3点」」 (朝日新聞 2014年12月28日)

進化論といえば、適者生存の考えとして知られているが、地上に出現した生物種の99・9%が絶滅している。現在の種が残ったのは偶然にすぎない。 進化の根底には「理不尽な」偶発性がある。本書はそこから、進化論の専門的な議論を再検討する。

柄谷行人さん、朝日新聞 2014年12月28日より抜粋



書評|長野敬さん「2014私の3冊」 (東京新聞 2014年12月28日)

「絶滅」という視点から生命の歴史を眺める進化論についての冒険的エッセイ。 遺伝子にこだわりすぎた研究者(ジョージ・プライス)の、悲劇的な自滅の物語も含んでいる。

長野敬さん、東京新聞 2014年12月28日より抜粋



書評|島田雅彦さん (朝日新聞 2014年12月21日)

多領域で用いられる「適者生存」というコトバの用法やトートロジー的本質を検証しつつ、 グールドやドーキンスらダーウィン以後の進化論専門家による論争をなぞるが、それだけならば、 本書は非常によくできた進化論ガイドブックにとどまる。しかし、筆者の筆はよく走り、時には哲学的、随想的逸脱も恐れず、この理不尽さに向き合った結果、 さわやかな無常観が浮かび上がってくるのが面白かった。

カントの著作に『人類の歴史の憶測(おくそく)的起源』という創世記神話を考古学的に読み替えた論文があるが、 本書は『種の起源』を生物学の要素還元主義にとらわれず人文科学的なオープンスタンスで論じた結果、多くの思考のヒントを供する寓話(ぐうわ)に仕上がっている。

島田雅彦さん、朝日新聞 2014年12月21日より抜粋



書評|池澤夏樹さん 私の読書日記 (『週刊文春』12月25日号)

ここ数年、若くてすごい思想家が次から次へと登場するのに呆れている。最近の例で言えば白井聡の『永続敗戦論』だが、ここにまた一人、進化論という滑走路から離陸して知の全域を自在に遊弋する飛行人間が現れた。(…)

まずは俗流進化論のことを話そう。世の中の大半は進化論を曲解している。進化を進歩と思って「冷蔵庫はここまで進化した」などと言う。ダーウィンが言ったことの真逆ではないか。

ぼくはこういう言説に出会うたびに、進化は環境とセットの概念だから衰退や絶滅を含むのだ、と説いてきた。しかし、なぜ人々が進化を進歩に重ねたがるか、その理由にまでは思いが至らなかった。典型的な思考停止だ。

この本はその先へ行く。
なぜ人は進化を進歩と思い込むほど楽観的なのか。(…)

吉川浩満は現場の研究者ではない。進化論をはじめとする現代思想の著作物を大量に網羅的に読破して、それを整理整頓し、素人の読者に供してくれる、いわばファシリエータ―であるが、その能力が半端でない。博学多才で、文章は機知に富んでよく笑わせる。肝心なのは彼がことの本質をぐいと摑んで綺麗に並べて見せること。(…)

その先で、吉川は敗れたグールドの救済を試みる。なぜ彼はあれほど果敢に抵抗したのか? 彼が守ろうとしたことは何だったのか? みんな大事なことを見落としてはいないか?

ぼくなりに大雑把な要約を試みれば、進化は法則であると同時に歴史である。つまり無数の偶然を含む一回性のものである。それが進化が理不尽であるということだ。グールドはこの視点をどうしても無視できなかった。絶滅した99.9パーセントの種への同情を捨てきれなかったというのはロマンティックすぎるかもしれないが。

ヒトも一つの種であり、それがために進化論に対して我々は客観的になり切れない。正しいドーキンスをどこか冷たいと感じてしまうのは判官贔屓だろうか。
池澤夏樹さん、『週刊文春』12月25日号 より抜粋



書評|池澤夏樹さん 2014この3冊 (「毎日新聞」2014年12月14日)

進化を絶滅の側から見直すという形で展開される科学啓蒙書。学説の解説はまことに大胆で、文章は機知に富む。ドーキンスとグールドの論争を鍵として、現代思想の鳥瞰図が見事に描かれる。

池澤夏樹さん、「毎日新聞」2014年12月14日 より抜粋



書評|加藤典洋さん 敗者の想像力への旅 (共同通信 12月4日配信)

☆中国新聞、山梨日日新聞、岩手日報、福島民友、京都新聞、琉球新報、沖縄タイムス、下野新聞、秋田魁新報、山陽新聞、東奥日報、山形新聞、四国新聞、山陰中央新報、愛媛新 聞、日本海新聞にて掲載!

四〇代前半の気鋭のライターの手になる新しい種類の書き物である。テーマは進化論。新しいという意味は二つある。

一つは一見難解な文系と理系の間の境界領域をやすやすと遊弋し、エンタメまじりに楽しむ知的な書き手が現れたこと。 二つは、私には特にうれしい驚きだが、現在の大多数の本と思想が無意識裡に軍門に下っている広義の「進化」イデオロギーから自由な、成熟した感性がここにあること。(…)

絶滅という観点から進化をとらえてみようと、著者はいう。なぜならこれまで生物種のうち九九・九パーセントが絶滅しているからだ。 隕石衝突による恐竜絶滅のような大絶滅も過去に五回あった。それにダーウィンもそもそも「優勝劣敗」ではないゴールのなさに適者生存の原理の面白さを見たのだ。 構想から二〇年。若いに似合わない視野の広さ、敗者への想像力、老熟の文体がスリリングである。

加藤典洋さん、「共同通信」12月4日配信 より抜粋


書評|日経新聞書評欄 現代社会の「物の見方」の起源 (「日本経済新聞」2014年11月23日朝刊

米国の代表的な古生物学者、デイヴィッド・ラウプの推定によると「地球上に出現した生物種の総数は、おそらく五〇億から五〇〇億」にのぼるという。ところが現在、生息する生物種は400万程度。つまり、これまでに現れた生物種のうち99.9%はすでに絶滅している。なんとも「理不尽」である。

われわれはこの理不尽さを正面から受け止めず、「適者生存」などの便利な言葉でかわしている、と著者は語る。こうした言葉を裏打ちしてきた価値観が、ダーウィンに代表される進化論である。著者は、進化論をめぐる論争やそれを受け入れてきた近現代社会の様相を読み解く。それは「人間」を捉え直す哲学的な試みにほかならない。(…)

人間味ある熱気が筆致にこもる思想史だ。

「日経新聞」 2014年11月23日朝刊 より抜粋


書評|山形浩生さん (cakes「新・山形月報!」2014年11月19日

おー。進化論におけるグールドの敗北を明記した上で、その敗北を救うだけでなく、それをぼくたちみんなが抱える問題の鏡として使い、進化論やあらゆる学問の基盤にまで迫ろうという力業。しかもその中で、グールドが実はあまり評価されていない小者であることも明記しつつ、でもまさにそれが、大物ではないぼくたち自身にもつながってくるという巧妙なつくり。ぼくは進化論の哲学とかその手の話は、基本的にまぬけだと思っているんだけれど、本書で初めて、こうしたことを考えること自体にも少し意義があるかも、と納得するに到った。 (…)

欲を言うなら、もうちょっとコンパクトに論じられたんじゃないかとは思う。でも一方で、それこそぼくみたいな意地の悪い読者の突っ込みを避けるべく、考えられる議論の大きな穴をていねいに埋めるためには、これだけの量が必要だったこともわかる。進化論にいま一つ割り切れない思いを抱いている人は、手に取って損はしないと思う。少し考えの基盤が広がるし、自分の割り切れなさにも納得がいくだろうし、進化論そのものについても、改めて理解が深まると思うから。そして、それ以外の学問についても。

山形浩生さん、cakes「新・山形月報!」2014年11月19日 より抜粋


書評|養老孟司さん (毎日新聞 2014年11月09日 東京朝刊

私たちは進化論が大好き。著者はそう書き出す。私も進化論が好きで、高校生の頃から進化の本を読み漁(あさ)った。懐かしい。自分にもそういう時代があったなあ。そう思って読み始めたら、アレッだまされたかな、と思う。でも面白いから読み続けて、とうとう全部読み終えてしまった。疲れた。なぜって立派な哲学書を読まされてしまったからである。(…)

進化論の面白さはどこにあるか、なぜそれが専門家の間でも極端な論争を呼ぶのか、本書はそこをみごとに説明する。近代の欧米思想史にもなっている。著者は自分の本の書き方は自分で掘った穴を自分でまた埋め戻しているようなものだと謙遜する。でも私は近年ここまでよくできた思想史を読んだ覚えがない。人文社会学の分野には近年良い著作が出る。個人的にそう感じる。経済だけではなく、日本社会は変わりつつあるのではないか。
養老孟司さん、「毎日新聞」2014年11月09日東京朝刊より抜粋




[目次]
まえがき
序 章 進化論の時代
第一章 絶滅のシナリオ
第二章 適者生存とはなにか
第三章 ダーウィニズムはなぜそう呼ばれるか
終 章 理不尽にたいする態度
あとがき
参考文献
人名索引
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