英語教育のプロ・磐崎弘貞、E-DICを使う(2) |
第2回 「口語と専門語が同居している、ユニーク辞書」 |
★E-DIC 初体験:まずはその基礎体力を見ると… 前回は、英語授業における、特に発信面での辞書活用のポイントを取り上げました。今回、E-DIC が到着しましたので、さっそくこうした観点からこの CD-ROM 辞書を試用してみたいと思います。
まず、CD-ROM からのインストールですが、当然ながらハードディスクに全コンテンツを入れることができます。
作業はスムースですが、画面は XGA(解像度 1024×768 pixel)のみのサポートですので、ちょっと古い SVGA(800×600)の画面を持つノートパソコンなどでは、インストールはできても辞書画面がモニターからはみ出てしまいますから、注意しましょう。
辞書コンテンツについては、従来から定評のある『アメリカ口語辞典』(朝日出版社)などの英語口語辞典に加えて、『科学英語例文集』『医学英語例文集』など専門例文辞典が入ったのが注目です。
その結果、17の辞書を収録し、見出し語72万・例文10万という、ちょっと驚きの数字になっています。
CD-ROM だと1枚なので、このすごさが分かりにくいのですが、翻訳家に人気のある『小学館ランダムハウス英和大辞典』でも、収録語数34万5千、用例17万5千ですから、その収録項目の多さが分かります。
では、さっそく気になっていた語を引いてみます。
★「ジレンマ」のコロケーションは?
まずは「ジレンマ」(dilemma)を引いてみます。実は、多くの英和辞典では、
・be in a dilemma about (~について板ばさみになっている)
という用例しかなく気になっていたのですが、やはり、E-DICはいろいろとバリエーションを教えてくれました。
dilemma で検索して多くのヒットがありますが、たとえば、be in a dilemma
あるいは get caught in a dilemma でもいいが、会話では be/feel torn between
A and B もよく使われると教えてくれます。あるいは dilemma を使っても、
・be on the horns of a dilemma
・find oneself on the horns of a dilemma
のような表現も教えてくれます。たとえば、
・Fred found himself on the horns of a dilemma. (フレッドはジレンマに陥っていた)
といった調子です。
★生活語彙「生ゴミ」も載ってる? 授業で生活習慣などをプレゼンする際に、「生ゴミ」の話などもよく出るのですが、実は、これも意外なことに、多くの英和・和英では、項目はあっても用例がまったくありません。
その点、E-DIC はどうでしょう。「生ごみ処理機」(a garbage disposer)に始まり、以下のような動詞とのつながりも多数チェックできます。
・「生ゴミはこのバケツに入れなさい」
→ Put the garbage in this pail.
・「ゴミを出す日はいつかしら?」
→ On what days should I put out the garbage?
・「生ごみを堆肥にする」
→ turn garbage into compost
3番目の用例などは、意外だけれど嬉しい用例です。
このように、E-DICが生活語彙も実生活に即してちゃんとカバーしているのは感心しました。
★ついでに専門語はどうだ? 口語と専門語が同居しているのが、この E-DIC の面白いところです。
たとえば、「仮説」(hypothesis)という言葉自体は、それほど専門的ではないのですが、実はこんな単語でも用例が載っていない辞書が多いのです。よって、大学生でも「仮説を立てる」という英語が出てこなくて立ち往生するのです。
E-DICで「仮説」を検索すると、統計用語の「帰無仮説」(null hypothesis)や言語についての仮説「ウォーフの仮説」(Whorfian hypothesis)などとともに、動詞とのつながりも分かります。
・Three hypotheses have been proposed to explain the origin of viruses.
(ウイルスの起源については、3つの仮説が立てられてきた)
からコロケーションは propose a hypothesis であることが分かります。別の項目からは
・bear out the hypothesis (仮説を裏づける)
といった表現も分かります。
前々から気になっていた言葉をこれ幸いと引き始めたら、あっという間に時間がたってしまいました。
ほかとは毛色の違うこの辞書で、おやっと思う情報がヒットすると、「そんな表現もあったかッ!」と“プチ興奮”の連続です。
その後のことは、次回まとめてのご報告としましょう。
(いわさき・ひろさだ)徳島県生まれ。筑波大学大学院修士課程修了。1996-97 年に英国バーミンガム大学研究員。現在、筑波大学大学院助教授。専攻は英語教育学・辞書学・コーパス言語学。主な著書に『英英辞典活用マニュアル』
『続・英英辞典活用マニュアル』 『新学習指導要領にもとづく英語科教育法』<共著>(以上、大修館書店)、『英語
辞書力を鍛える』( DHC )。連載は「辞書 GAKU 事始」( Asahi Weekly 紙第3週、オンライン版あり)、「和文英訳演習室」(
『英語教育』大修館書店、奇数月、共著)。 |
|
|
|
|