細菌が人をつくる

  • 細菌が人をつくる
    細菌が人をつくる
ページ数:200ページ / ISBN:9784255010571 / Cコード:C0095 / 発売日:2018/06/02

細菌が人をつくる

[著者紹介] ロブ・ナイト 著 / ブレンダン・ビューラー 著 / [訳者紹介] 山田拓司+東京工業大学山田研究室 定価: 1,890円(本体1,750円+税)

在庫: 在庫あり

体内に100兆個いる細菌が、人間の真の宿主である。

腸の声を聞こう。10兆個ある人間の細胞より10倍も多い細菌の大コミュニティが、私たちの健康と病気(腸疾患、肥満、アレルギー、喘息、うつ病)、気分や行動の鍵を握っている。他人とは90%違うというヒト常住細菌叢(ヒューマンマイクロバイオータ)の威力がようやくわかってきた。出産方法の影響、話題のプロバイオティクスや抗生物質の服用法まで、この分野の第一線を行く科学者が驚くべき最新の実験結果を紹介しながら、細菌というミクロな隣人と共生する未来を覗き見る。

「細菌とヒトの話を聞いていると、自分自身の境界がぼやけてくる」……山田拓司(解説冊子より)

Small books, big ideas. 未来のビジョンを語る。
人気のTEDトークをもとにした「TEDブックス」シリーズ日本版、第12弾。

本書の著者、ロブ・ナイトのTEDトークは以下のTEDウェブサイトで見ることができます。
www.TED.com(日本語字幕あり)



「どうして医者は患者の常在細菌を知ろうとするのでしょうか。それは、私たちの常在細菌と、肥満、関節炎、自閉症など多数の病気との知られざる関係が最近の研究から示唆されてきているからです。今ようやく、ヒトの疾患と常在細菌とのあいだにある見えない関係性に光が当たり始めていて、将来の新たな治療方法に一筋の光明が差してきています。ありとあらゆることが、常在細菌の影響を受けていると言っていいでしょう——医療や食事、あなたが長男・長女かどうか、性的パートナーが何人いるか。このあとに続くページを読めば、私たちの命のほとんどすべての局面で常在細菌が密接に関わっていることがわかるでしょう。人間であるとはどういうことか、常在細菌はその定義を新たに更新しつつあるのです」(本書より)

【解説】

果てしない細菌研究  山田拓司

 細菌が地球のどこにいるのかといえば、それはもう、どこにでもいる。土の下、海の中、空の上、そして生き物の中。細菌の世界は知られているようで、実はあまりわかっていないことが多かった。なぜかというと、培養法が基本だったからである。すなわち、実験室で細菌を飼って、増やして、研究する方法である。日本でペットとして飼われているのは犬か猫がほとんどだろう。象や虎はだいたい動物園にいるし、パンダやコアラは動物園でも飼育は難しい。なぜかというと飼い方がよくわからないからである。多くの細菌もそうで、ほとんど飼い方が知られていない。2000年初頭までの細菌研究は基本的にはこの「飼い方」をまず確立し、そして研究を行なっている。そして大腸菌のようによく飼い方が知られている細菌をモデル生物として、多くの研究が進められてきた。しかし、事実として、培養できないが目に見えない菌が多数存在している。

 そのような中、2006年に大きな技術革命が起こり、培養しなくても細菌が見えるようになった。研究室で細菌を飼うことをせず、土や水の中にいる細菌から直接遺伝子を取り出して調べる、という方法が開発された。どんな細菌がいるかあらかじめ想定せずに、とりあえず全部見えるだけ見てみよう、という方法である。この10年、世界中の研究者は興味の赴くまま、見たい場所にいる細菌とその群集構造を調べてまわっている。そのひとつがヒトの中である。

 本書では腸や目や皮膚など、身体の各部位に住む細菌について、著者自身の研究背景やエピソードが紹介されている。ヒトに住む「ヒト常在細菌」は健康や病気に直接関わっていることが明らかになってきたので、この10年ほどで凄まじい勢いで研究が進んでいる。著者はその第一線を突き進んでいる研究者である。

 さまざまな実験的事実が紹介されているが、その中でも「遺伝的に言えばヒトの99%は細菌である」というのは驚くべき知見である。この事実を踏まえると、ヒトはどこまでがヒトなんだろうか? 自分は本当に今考えているとおりの自分なのだろうか?という疑問が湧いてくる。生物はその定義として動的恒常性を持っており、自分の身体は自分でエネルギーを使って維持している。本書には個人識別の話も紹介されているが、自分自身の細菌群集の構造が維持されていて個人識別に使えるとなると、我々は自分でエネルギーを使って共生する細菌を維持しているということになる。となると、私の常在細菌はやはり私自身に思える。だとしたらやはり、自分はどこまで自分なのだろうか? 細菌とヒトの話を聞いていると、自分自身の境界がぼやけてくる。家族や同居人とは細菌がシェアされているだろう。自分の境目はますます曖昧になり、世界との一体感と言うべきなのか、よくわからない感覚になる。事実が次の疑問を呼ぶ。

 本書ではまた、細菌と疾患との関わりが大きなテーマとして扱われている。それはヒト常在細菌研究の大きなドライビングフォースのひとつであり、肥満や糖尿病はもちろんのこと、細菌と一見関係なさそうな循環器系疾患や精神疾患についての報告例もある。腸と脳の関係など、本当か?と疑うような結果も多いが、その証拠が毎年蓄積されている。現時点では患者と健常者の違いを見いだす研究がほとんどで、その違いが疾患の原因か結果かわからないものも多いが、診断という点においては医師が医療の現場で利用するようになるまでもう少しだろう。

 本の中では薬剤動体について触れられていなかったが、2017年度に免疫チェックポイント阻害剤という、抗がん剤と腸内細菌との関係が明らかとなっている。薬剤の効果が腸内細菌に依存しているという発見である。これはまさしく、未来についての章の内容のひとつである。腸内細菌を調べると、薬効の診断ができる。特定の細菌が多い場合には薬効がある、というのであれば、その細菌と一緒に飲めば薬も効くかもしれない。

 診断の次は予防、そして治療へと続く。重要なのは、細菌群集は変更できるかもしれないという点である。現在の科学技術では、生まれたあとにヒトの遺伝子を改変できない。しかし、ヒトに常在する細菌群集なら変更可能である。現時点では常在細菌を完全にコントロールする方法は報告されていないが、変更できるものには需要と価値が生まれ、そこには自然と、技術や資本が集まる。細菌群集を制御できるなら、これまでは難しかった治療へとつながる可能性が高い。本書では便を移植する「糞便移植」が紹介されているが、よくこの方法を思いついたなと感心した。おそらく今後もこのようなすごい方法がどんどん出てくるに違いない。

 常在細菌がヒトの定義を変えた。新たに発見されたヒトの側面をどう扱うか、世界中の研究者が日々戦っている。そして、そのサイエンスはものすごく身近なところにある。我々はまさに今、人類の英知が広がっている、その最中にいるのだ。




やまだ・たくじ 1977年生まれ。東京工業大学生命理工学院准教授、生命情報学者。株式会社メタジェン取締役副社長CTO。専門はコンピュータを用いて遺伝子情報などの生命科学ビックデータを解析するバイオインフォマティクス。

著者紹介

  • ロブ・ナイト(Rob Knight)
    カリフォルニア大学サンディエゴ校教授(小児科学・コンピュータ科学・工学)、同大マイクロバイオーム・イニシアティブ所長。「アメリカン・ガット(アメリカ人の腸)」プロジェクト、アースマイクロバイオーム・プロジェクトの創設者の1人。

    ブレンダン・ビューラー(Brendan Buhler)
    科学ライター。受賞歴あり。『ロサンゼルス・タイムズ』『California』『Sierra Magazine』などに寄稿。ロブ・ナイトの研究を紹介する文章が『The Best American Science and Nature Writing 』2012年版に選ばれた。

    山田拓司(やまだ・たくじ)
    1977年生まれ。東京工業大学生命理工学院准教授、生命情報学者。2006年京都大学理学研究科にて博士号取得。京都大学化学研究所助手、ドイツの欧州分子生物学研究所研究員を歴任。2016年より東京工業大学生命理工学院准教授。専門はコンピュータを用いて遺伝子情報などの生命科学ビックデータを解析するバイオインフォマティクス。近年はヒト腸内環境ビッグデータを用いて、ヒトと腸内細菌との関わりを明らかにする研究を行なっている。2014年よりヒト腸内細菌解析のための産学連携コンソーシアム「Japanese Consortium for Human Microbiome」を設立し、大学内の研究成果を産業応用につなげる活動を行なっている。2015年には株式会社メタジェンを共同設立、同社取締役副社長CTOを兼任。

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